キャリア

その採用、戦略的ですか?【その1】

――“組織をつくる視点”で考える中小企業の採用設計


その採用、本当に “戦略的” ですか?

こんにちは。マキシムです。

A社は、社員30名ほどの製造業の中小企業です。
営業職の退職を受けて、すぐに求人広告を出しました。しかし、応募は数件のみ。しかも条件に合う人は一人もいませんでした。半年後、ようやく1人が入社しましたが、3か月で退職。「合わなかった」とだけ残して去っていきました。

このような採用の失敗例は、決して珍しくありません。求人票の内容を見直したり、媒体を変えたりと、打ち手はたくさんありますが、本質は「採用の捉え方」にある気がします。

採用とは、単なる “人集め” ではありません。
採用とは、 “組織の未来をつくること” そのものです。

中小企業の採用の考え方について、3回に分けて綴っていきたいと思います。よろしくお願いします。

※本記事は、私の支援経験と観察をもとに構成しています。すべての企業に当てはまるわけではありませんが、採用活動を見直す一つの視点としてお役立ていただければ幸いです。


中小企業が陥りがちな採用の落とし穴【4選】

(1) A社のような「脊髄反射的な採用」

退職者が出たから、すぐに求人を出す。現場が忙しくなったから、とりあえず同じポジションを埋めにいく。

しかし、それは「今の組織に本当に必要な人材なのか?」という問いをすっ飛ばした採用です。

ときには、業務を再設計したり、既存社員で役割を分担する方が合理的なケースもあります。採用を「穴埋め」ではなく「設計」として捉える発想が必要です。


(2) 要件が属人的・非現実的

B社では、社長が「35歳以下で、MARCH卒以上の学歴で、マネジメント経験あり」という条件を採用基準として指定しました。現場責任者は「そんな人はうちに来ない」と内心思いながらも、逆らえず、面接も形ばかりになっていました。

このように、スペック先行で現実性を欠いた要件設定は、出会いの幅を大幅に狭め、貴重な応募者を逃す要因になります。


(3) 条件で釣る採用の限界

「給与は地域水準より高め」「リモート可にしている」

それでも応募が集まらない、または早期離職につながることがあります。なぜか?

心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した「二要因理論(動機づけ・衛生理論)」では、仕事における満足と不満足は、まったく別の要因によって生まれるとされています。

ハーズバーグは、職場環境に関わる要因を次の2つに分けました。

  • 衛生要因:給与、労働条件、福利厚生、上司との関係など
     → これらが不十分だと不満は生まれますが、充実していてもやる気には直結しません。
  • 動機づけ要因:仕事のやりがい、成長実感、達成感、承認されることなど
     → これらが人の内側に働きかけ、仕事への意欲や満足感を高めます。

つまり、条件を良くすることは「不満の解消」にはなっても、「意欲を引き出す」ことにはならないということです。

この理論は組織運営で活用されることが多いですが、採用活動にも応用できます。待遇の良さだけで応募を集めても、それが「働きたい理由」にならなければ、ミスマッチや早期離職につながります。

中小企業こそ、給与や福利厚生の水準で勝負するのではなく、 “動機づけ要因” 、つまり、「理念」「やりがい」「成長実感」を丁寧に伝えることが、人を惹きつける力になります。


(4) 応募数ばかりを追う母集団形成

応募が少ない → 媒体を変える → それでも来ない。
そんなとき、「なぜ来てほしい人が来ないのか?」を考えず、結果的に「どうすれば “誰でもいい人” を集めるか」に意識が向いてしまう企業があります。

でも、採用は数の勝負ではありません。
「自社に合った人」を引き寄せるには、 “誰を求めているか” を自社内で明確にすることが第一歩です。


採用は“動機づけ”から考えるべきである

採用は、外から人を“釣る”行為ではありません。
本当に大切なのは、「この会社で働きたい」と内側から思ってもらうことです。

ここで紹介したいのが、心理学者エドワード・L・デシとリチャード・ライアンが提唱した「自己決定理論」という理論です。

この理論は、人が自発的・継続的に行動するためには、内発的な動機づけ(=自分の内側から湧き出るやる気)が重要であり、
そのためには次の3つの心理的欲求が満たされている必要がある、と説いています。


自己決定理論が示す、3つの内発的動機の源

  1. 自律性
     ─ 「自分で決めている」「選ばされているのではない」という感覚。
      例:自ら挑戦を選べる風土、提案が通る文化、裁量ある働き方。
  2. 有能感
     ─ 「自分は役に立っている」「成長できている」と感じられること。
      例:努力が認められる環境、チャレンジできる業務内容。
  3. 関係性
     ─ 「チームとつながっている」「自分が受け入れられている」という実感。
      例:心理的安全性のある職場、信頼関係が築かれる日常。

この3要素が満たされると、人は自ら動き、主体的に行動するようになります。逆に言えば、外からのごほうび(給与・肩書き)やプレッシャー(叱責・ノルマ)だけでは、長期的なモチベーションにはつながらないのです。


採用への応用:中小企業こそ、3つの要素で勝負できる

自己決定理論の3つの要素は、実は中小企業が自然と持っている魅力と相性が良いものです。

  • 自律性 → 裁量ある仕事、挑戦を歓迎する風土
  • 有能感 → 多様な業務経験、成果が見えやすい環境
  • 関係性 → 距離の近い組織、フラットな関係性

だからこそ、これらの要素をちゃんと見える形で、伝えることが必要です。

「この会社でなら、自分が活かせそう」「ここで働くことに意味がありそう」。そう思ってもらえる “設計” が、良い採用に近づく鍵になります。


次回はその一歩先として、「誰を採るのか」を明確にするペルソナ設計と、採用を通じて組織そのものを再構成していく視点について詳しく掘り下げます。ぜひご覧ください。

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