こんにちは。マキシムです。
前回の記事【その1】では、中小企業が採用でつまずきがちな「4つの落とし穴」と、採用を “動機づけ” の観点から見直す重要性についてお伝えしました。
今回は、さらに一歩踏み込んで、「誰を採るべきかを明確にする」ためのペルソナ設計と、採用を組織づくりと連動させる視点について解説します。
求める人材を明確にする(ペルソナ設計)
C社では、いつも「誰でもウェルカムです」と書かれた求人票を出していました。
しかし、集まる応募者はスキルや経験にばらつきがあり、「なんとなく合わない」と感じる面接が続いていました。
現場では、「これじゃ、いつまで経ってもいい人は来ない」と不満が高まっていました。
このような状況でまず見直すべきなのが、「求める人物像(ペルソナ)」の明確化です。
なぜペルソナ設計が必要なのか?
採用は「来た人から選ぶ」ものではなく、「こういう人に来てほしい」という設計があってこそ」成立するものです。これを読んでいる皆さんは「そんなの当たり前だろ」と思うかもしれません。しかし、「とりあえず募集」→「来た人を面接」→「合わない…」という流れを繰り返してしまう企業は少なくありません。
ペルソナ設計とは、「理想の候補者の特徴を、仮想の人物像として具体的に描く」ことです。このプロセスによって、採用活動に必要な要素――求人票の文面、面接の質問、採用広報のトーンなどに統一感が生まれます。
ペルソナ設計の5つの視点
ペルソナ設計では、以下のような情報を可能な限り具体的に言語化していきます。
- 業務遂行に必要なスキル・経験
(例:経理なら仕訳の経験、営業なら提案型営業の経験など) - 性格・行動特性
(例:慎重で誠実、吸収が早く素直、粘り強いタイプ) - 価値観・働く姿勢
(例:成長志向が強い/自分で判断するのが好き/地元に貢献したい など) - 組織との相性(社風とのマッチ)
(例:スピード重視の組織なのか/安定・丁寧な運営を大切にしているか) - 求職者の現在地・動機想定
(例:大企業から中小企業に移りたい人/家族との時間を重視したい人)
どのようにペルソナを作るか?
手順は以下の通りです。
- 活躍している社員を観察する
過去に採用して「この人は本当にうちに合っている」と感じた社員を思い出してみてください。その人の性格や価値観、行動の特徴は何だったか?実際の人物像から逆算することで、 “理想論” ではない実践的なペルソナが作れます。 - 社内ヒアリングをする
現場責任者やマネージャーから、「どんな人が働きやすいか」「困った採用事例は何だったか」を聞く。主観でよいので、 “肌感覚の共有” が大事です。 - 紙1枚に整理して社内共有
仮想の人物像を「◯◯さん(35歳、都内在住。誠実で周囲に気を配れるタイプ)」のように具体的に描く。そして、それを人事・現場・経営陣で共有することで、採用の目線がズレないようにするのがポイントです。
ペルソナが明確になると何が変わるか?
採用広報(採用ページ・SNSなど)で語る内容が、一貫したトーンになる
求人票が「誰に向けたメッセージか」が明確になり、応募の質が変わる
面接での質問や評価がブレなくなり、 “なんとなく” の選考が減る
組織づくりと連動した採用設計のすすめ
D社は、総務担当者の退職をきっかけに、すぐに後任の採用を開始しようとしていました。(前回の記事【その1】の、A社のような "脊髄反射的な採用" です。)
しかし、業務内容を洗い出してみると、その多くは経理部門で対応可能な業務だったことが分かりました。結果的に「経理を1名増員し、総務の一部を移管した方が全体として効率が良い」と判断し、 “総務を補充する” という思い込みを手放したことで、むしろ月次決算のスピードアップという組織課題も同時に解決できたのです。
このように、採用を「ただの人員補充」だと捉えると、視野が狭くなります。
欠員補充型の採用がもたらす落とし穴
中小企業では、とかく「人が辞めたらすぐに埋める」ことに意識が向きがちです。
確かに業務の継続性は重要ですが、何も考えずに「とりあえず同じポジションを埋める」採用を続けると、組織構造の硬直化を招きます。
- 本当にその業務をフルタイムで担う必要があるのか?
- 社内で他のメンバーに分担・再編することで、別の課題解決につながらないか?
- そもそも、その業務は今も「やるべきこと」なのか?
こうした問いを置き去りにした採用は、将来の非効率やミスマッチを生む温床になりかねません。
採用設計と組織設計を連動させる視点
採用を、 “組織の未来をつくる手段” として捉えると、以下のような思考の転換が生まれます。
業務の棚卸しを起点にする
ポジションありきではなく、まず「今、組織に必要な成果は何か?」から考える。
→ そのためにどんな役割・機能が必要かを再設計する。
組織の弱点・課題とリンクさせる
「人が辞めた」=採る、ではなく、「なぜ辞めたのか」「業務や組織に根本的な問題はなかったか」まで掘る。
→ 採用と同時に、組織改善の種を見つけるチャンスに。
今後の成長戦略と接続する
たとえば、「新たに◯◯事業に力を入れる予定がある」とすれば、今必要なのは従来業務の後任ではなく、変化に対応できる “未来の人材” かもしれません。
実務で活かす「採用設計3ステップ」
- 業務を細かく分解し、役割を再編成
→ 現在のメンバーでできること・難しいことを棚卸し
→ 外注・ツール化できる部分も視野に入れる - 将来像に照らして “採るべきポジション” を再定義
→ 今ではなく、「半年後・1年後に必要な役割」から逆算 - 採用する人の人物像(ペルソナ)を、未来の組織像と結びつけて描く
→ スキルだけでなく、変化に強い・多機能性をもつなどの特性も検討
中小企業だからこそ、 “柔軟に再構成できる” 強みを活かす
大企業では、組織階層や職務分掌が固まっているため、業務の見直しや人材の再配置には時間がかかります。
しかし中小企業であれば、社内の距離が近く、柔軟な役割設計やスピード感のある判断が可能です。
むしろそれを活かして、 “組織をしなやかに進化させていく” 採用ができれば、変化の激しい時代でも競争力を保ちやすくなります。
次回は、そんな採用活動を「選ばれるもの」に変えるための方法――採用広報と面接設計のポイントについてご紹介します。
「採用ページをどう作る?」「面接で辞退されないためには?」といった実践的な視点をお届けします。